昨年度に引き続き、ストレス応答を制御するHPA系に着目した自殺関連遺伝としてFKBP5遺伝子に着目し、さらなる解析を加え、特定のハプロタイプが自殺と有意に相関していることを見出し、世界に先駆けて国際医学雑誌に報告した。自殺企図者と関連遺伝子の相関研究においてサンプル数も比較的多く、他の研究グループでも同遺伝子の自殺行動への関与を示唆する報告が続いており、今後、この遺伝子の機能異常がストレス環境下でどのように情動や行動に影響を及ぼすかを解明すれば自殺行動の病態解明につながる可能性がある。現在、動物モデルを用いてストレスとこの遺伝子の関連を解明する研究を準備中である。 引き続き、自殺と有意に相関する統合失調症患者血液サンプルを用いた自殺や統合失調症関連遺伝子の探索も行い、神経型一酸化窒素合成酵素NOSI遺伝子と自殺、統合失調症両者の有意な関連を発見した。統合失調症においては女性患者の特に早期発症群でプロモーター上の機能的一塩基多型との相関を認め、またこの一塩基多型はヒト死後脳におけるNOS1蛋白発現とも有意な関連があることを確認した。これらも国際医学誌に報告した。とくに統合失調症の病態機序における一酸化窒素の関わりはほとんど研究が進んでおらず、神経発達、神経可塑性、記憶、神経障害など様々な領域に関わることが予想され、今後、生物学的マーカーや治療の創薬ターゲットになる可能性もある。 また心理学的アプローチとして女子学生を対象にした自己価値観、自己の体重に対する価値観(body-esteem)、アレキシサイミア(失感情症)との関わりを自己記入式質問票によって明らかにすることを試みた。自殺行動や精神疾患発症に至る段階以前から自己価値観の低さや自己の内面を表現することが困難なアレキシサイミア群では摂食障害予測のスコアが有意に高いことが示され、発症前からの心理学的関わりの重要性も再認識された。
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