本研究では気分障害の病態解明を第一の目標とし、うつモデルマウスにおけるGDNF発現量低下と抗うつ薬投与によるGDNF発現量亢進に着目し、抗うつ薬のGDNF発現亢進に対する選択性とその分子メカニズムをエピジェネティクスの側面から深く探求することを目的としている。 平成21年度は(1)向精神薬添加後のGDNF mRNA発現量の解析、(2)向精神薬添加後のGDNF遺伝子プロモーター領域ヒストンアセチル化レベルの解析を行った。まず、(1)についてであるが、細胞はRat C6 glioma cellを用い、向精神薬として抗うつ薬はイミプラミン(三環形)、マプロチリン(四環形)、フルオキセチン(SSRI)、ベンラファキシン(SNRI)を、気分安定薬としてはリチウム、バルプロ酸、カルバマゼピンを、抗不安薬はジアゼパム、抗精神病薬はハロペリドールを用いた。発現量解析は定量的リアルタイムPCRで行った。その結果、全ての抗うつ薬とバルプロ酸で有意なGDNF mRNA発現量の増加を認めたが、他薬剤では有意な変化は認めなかった。次に(2)についてだが、細胞はRat C6 glioma cellを用い、向精神薬としてはイミプラミン、フルオキセチン、バルプロ酸、リチウム、ジアゼパムを用いた。ChIP assayによる解析を行ったところ、イミプラミン、フルオキセチン、バルプロ酸ではヒストンH3、H4において有意なアセチル化レベルの増加を認めたが、他薬剤では有意な変化は認めなかった。以上のことからは抗うつ薬はヒストン修飾を介してGDNF mRNA発現量を増加させていることが示唆された。 平成22年度は(1)抗うつ薬のGDNF遺伝子プロモーターに対する作用機構の解析の検討、(2)うつモデルマウスにおける検討を行っていきたいと考えている。
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