本年度は、ヒト思春期のアタッチメントに関わる脳基盤を解明することを目的とし、研究1.思春期のアタッチメントには脳の如何なる領域が関与しているか、また、その機能は発達を通して如何なる変化がもたらされるかを調べること、研究2.症例対照研究を行うこと、について中心的に研究を行った。実験は、母親とそうでない女性(ストレンジャー)の笑顔動画刺激を呈示し、それを観察中の子の脳活動を近赤外分光法(NIRS)によって測定した。研究1は、タナーの発達段階に基づき、定型発達・男児を3段階に群分けし、発達1度(9歳)群、発達3度(14歳)群、発達5度(20歳)群と定義した。また、比較対照に、より幼若な幼児(5歳)を対象とした測定も行った。これまでに発達1度群では、右前頭前野腹内側領域に活動の増加が見られ、発達5度では見られないことを報告していた。また、幼児でも確かに右前頭前野の活動の増加が見られた。このことから、右前頭前野腹内側領域の活動は、発達1度程度までのアタッチメントを反映する可能性が示唆された。一方、発達3度群では、発達1度群で見られた領域の他、左前頭前野(背外側、内側)、右前頭前野(外側)に活動の増加が見られた。しかし、母親に対する感情についての問診結果との関連性を調べると、左前頭前野の活動は反抗心やインセキュアな感情との間に正の相関を示した。これらの活動はテストステロン濃度と共に増加が見られ、思春期発達による変容を反映している可能性が考えられる。研究2では、定型発達(発達1度)群と自閉症スペクトラム(ASD)群との比較を行った。その結果、ASD群では定型発達群に見られた右前頭前野の活動の増加が見られなかった。ASDのコミュニケーション障害には、アタッチメントの脳機能障害が関与する可能生が示唆された。
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