本研究では、うつ病の病態と関わりの深い複数の神経栄養因子に着目し、電気痙攣療法(electroconvulsive therapy:ECT)の治療期間から終了以降にかけて、それらの血清中の動態を定量する。これに基づいて患者の逐次的な状態の評価ならびに予後の推定を行い、ECTの治療効率を患者単位で最適化することを目的とする。さらに、うつ病モデル動物を用いた実験系を確立し、神経栄養因子とうつ病の病態との関わりについてその生物学的基盤を精査し、患者の状態把握と治療方針確立の一助とする。前年度までに副腎皮質刺激ホルモン(adrenocorticotropic hormone:ACTH)を2週間反復投与してうつ病モデルマウスを作製して、ACTHマウスがうつ様行動を示すこと、海馬の脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor:BDNF)量と上皮成長因子(epidermal growth factor:EGF)量が低下する傾向を確認した。よって、行動と生化学の面からACTH投与によるうつ病マウスのモデルを確立した。今年度は、うつ病患者を対象に、ECT施行開始前から治療終了以降を通して、静脈採血を実施した。採取された血液から血清を分離し、サンドイッチELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)を用いて神経栄養因子量を測定した。ECT施行前に比べて、ECT1回目からBDNF量が増加する傾向があった。またその増加は、最終ECTから1ヶ月後まで維持される傾向があった。今後、十分な被験者数のデータを収集し、経時的な神経栄養因子の動態と症状の重症度との関連性を精査する予定である。
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