薬物依存症の動物モデルである逆耐性現象を消失させるドーパミンD1受容体刺激薬反復投与が、どのような機序で作用するのかを解明するため、リン酸化タンパクDARPP-32のリン酸化状態の解析を中心としてシグナル変化の検討を行った。実験動物の個体レベルでのシグナル解析を行う目的で、生前のDARPP-32リン酸化状態の保持に最適なマイクロウェーブ照射条件を検討した。その後、前頭前皮質、線条体、海馬を分離し、ウエスタンブロット法によりDARPP-32、AMPA型グルタミン酸受容体GluR1サブユニット、NMDA受容体NR1サブユニットなどの発現量およびPKAでリン酸化される部位のリン酸化状態の解析を行った。メタンフェタミン単回投与では線条体におけるドーパミンD1受容体/PKAシグナルが増強されるが、メタンフェタミン反復投与後、つまり逆耐性形成後ではドーパミンD1受容体/PKAシグナルの減弱を示唆する実験結果が得られた。この結果より、ドーパミンD1受容体刺激薬反復投与は、逆耐性形成ラットにおいて減弱しているドーパミンD1受容体/PKAシグナルを増強することにより逆耐性を消失させるという可能性が考えられる。この結果は、薬物依存症の治療においてドーパミンD1受容体刺激薬が有用である可能性を示すと考える。また、遺伝子発現制御機構における変化の解明のため、逆耐性形成後およびドーパミンD1受容体刺激薬反復投与後のラットを断頭して各脳部位を分離し、ヒストンH3のアセチル化レベルを解析した。さらに逆耐性に関連する分子のmRNAの発現量を測定した。これらの検討においては現在までに著明な結果は得られていないが、条件検討の結果、解析に最適な実験条件の設定が終了し、実験系が確立された。
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