統合失調症は一旦発症すると完治が困難であるため、「発症予防」を行うことが疾患研究のアプローチにとって重要な目標と言える。申請者はこれまでに不飽和脂肪酸の一部に神経新生促進効果があることを見いだしているが、今回新たにその結果を応用して、不飽和脂肪酸投与により健全な脳発達を促進させることが出来れば、精神疾患(主対象は統合失調症)の根本的な発症予防の開発につながるのではないかとの作業仮説を考えた。そこで本研究では、食物から摂取可能な不飽和脂肪酸を用いて、神経発達期の不飽和脂肪酸摂取が統合失調症発症予防の可能性を示すかの検討を行った。 野生型マウスに対して不飽和脂肪酸含有餌または非含有餌を投与し、不飽和脂肪酸投与群および非投与群における脳内における遺伝子発現の変化を解析した。脳組織からRNAを抽出して統合失調症と関係が深いオリゴデンドロサイト系遺伝子およびGABA系遺伝子の発現解析を行ったところ、既報統合失調症分子病理との関連が認められた。また、不飽和脂肪酸投与群および非投与群に対してマンガン投与後にMRI撮影を行ったところ、投与群と非投与群の間で脳内の神経活動領域に違いがあることがわかった。行動実験では、諸種バッテリーで明らかな有意差を認めなかったが、幻覚剤に対する感受性が不飽和脂肪酸非含有餌群で高く、脳発達期の不飽和脂肪酸欠乏は、ヒトに置き換えるとARMS (At Rrisk Mental State)のモデルになる可能性が考えられた。
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