研究概要 |
欠失ミトコンドリアDNA(ΔmtDNA)を蓄積したミトコンドリア(mt)を有する細胞を障害部位として同定するため、パラフィン包埋脳組織の薄切切片(8μm厚)を用いて、核DNAにコードされるmt蛋白質(succinatedehydrogenase,SDH)に対する抗体とmtDNAにコードされるmt蛋白質(Cytochrome c oxidase,COX)に対する抗体を用いて染色し、蛍光二次抗体を用いて検出した。高速CCDカメラによるタイリング法で冠状断方向の脳切片全体の二重染色像をイメージングした。各タイル撮影時に自動焦点機能を施行し、油浸レンズを用いることで、焦点のずれを最小限に抑えた。ΔmtDNA蓄積が十分であると想定される老齢マウス♂5ペア・♀7ペアにおいて探索したところ、双極性障害モデルマウスでは、野生型に比べ、「COXシグナルを欠失し、SDHシグナルのみが観察される細胞(COX陰性細胞)」が有意に多く観察され、いくつかの領域に集積していた。COX陰性細胞は、ΔmtDNAによってmt呼吸鎖障害を持つと考えられた。この細胞種を同定するため、双極性モデルマウスとGAD、およびチロシンハイドロキシラーゼ(TH)プロモーター下にGFP遺伝子を発現するノックインマウスを交配させたラインを用いることを試みた。COX陰性細胞と共染するところまでは至らなかったが、抗GFP抗体を利用してGFP陽性細胞を染色し、GFP抗体によってGAD、およびTH陽性細胞が観察された。GFPとは重ならない波長域の2次抗体(Alexa-568、647)でCOXSDHシグナルを検出することも検討した。双極性モデルマウス脳内に蓄積するmt機能障害細胞を免疫組織化学的に同定できたことから、この方法を患者死後脳での検討に応用し、障害細胞や部位を同定できる可能性があり、その技術的基盤を確立した意義は大きいと考えられる。
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