統合失調症の発症には遺伝要因が大きく関わると考えられている。また、発症要因の一つとして、ミトコンドリア機能異常の関与が示唆されていることから、本研究では病態とmtDNA変異・多型との関連を明らかにすることを目的とし、本年度は、統合失調症患者剖検脳由来のmtDNAにおける多型および変異の探索を行った。統合失調症患者剖検脳の凍結切片を作製し、レーザーマイクロダイセクション法により神経細胞の密集する灰白質領域を切り出してmtDNAの解析を行った。剖検脳28検体について、呼吸鎖複合体IVおよびVのサブユニット遺伝子を含むmtDNA領域の塩基配列を決定した結果、28例中10例に新規(6ヶ所)あるいは稀なvariant(8ヶ所)を同定した。合計14ヶ所の新規・稀なvariantのうち、12ヶ所はATP6およびCO3遺伝子に収束していた。また、アミノ酸置換を伴うvariantはATP6に2ヶ所、CO3に2ヶ所の合計4ヶ所であった。この中には種間で保存されているアミノ酸の置換も含まれており、これらアミノ酸置換変異を保有する症例では、ミトコンドリア機能が変異による影響を受けていた可能性が示唆された。統合失調症患者および健常者の末梢血由来mtDNAに存在する多型・変異と合わせて解析することで、疾患特異的、組織特異的なmtDNA多型・変異が同定できると考えられ、本研究により、これまで行われてきた核ゲノムのみの変異・多型解析では解明できなかった病原遺伝子の同定と、病態におけるミトコンドリアの役割を明らかにできると考えられる。
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