覚醒維持障害を主症状とするナルコレプシーにおいて、視床下部に存在するオレキシン神経系の障害が報告されている。一方で同様に覚醒維持障害を主症状とする特発性過眠症においてはオレキシン神経系の障害は否定的である。本研究ではMR-DTI画像により、神経線維の障害を反映するとされる拡散テンソル画像のFA画像・ADC画像を算出し、また、T1画像から大脳白質・灰白質を分離した画像を作成し、12例の情動脱力発作を伴うナルコレプシー(NACA)患者、12例の情動脱力発作を伴わないナルコレプシー患者(NA w/o CA)、長時間睡眠を伴う特発性過眠症(IHS/LST)8例、および年齢と性別を一致させた12例の健常者を対象に、脳微細構造異常をvoxel-based morphometry(VBM)を用いてSPM5により検討した。その結果、情動脱力発作の有無に関わらずナルコレプシー群は脳幹部の白質体積の減少、帯状回・上側頭回・下前頭回近傍のADC値の上昇、内側前頭野のFA値の減少を認めた。脳幹部の体積減少は、脳幹部へ投射するオレキシン神経束や脳幹部に起始をもつ覚醒維持に関わる上行性の神経投射線維の障害を、帯状回・上側頭回・下前頭回近傍、内側前頭野のADC/FA値の異常は、脳幹部から全脳に投射するこれらの覚醒維持に関わる投射先の微細な変性を示し、ナルコレプシーの覚醒維持障害の病態を反映するものと考えられた。一方でIHS/LSTでは脳幹部に異常は認めず、前頭眼窩野のADC/FA値の異常のみを示したことから、覚醒維持に関わる脳幹部の上行性覚醒維持機構の投射先の異常が示唆された。NA/CAはNA w/o CAに比べて、両側中・下前頭回近傍のADC値の上昇と右被殻近傍の白質体積の減少を認めた一方で、NA w/o CAはNA/CAに比べて視床および頭頂葉楔前部のFA値の減少、小脳扁桃部の白質体積・左島部灰白質体積の減少を認めた。これら両側中・下前頭回、被殻・視床を含めた基底核群、小脳扁桃部・島皮質の差異は、情動脱力発作の病態を反映する情動と運動制御に関わる線維連絡の異常を示唆したものと考えられた。
|