研究概要 |
光イメージングでリンパ節転移巣を検出できる担癌動物を作成し,腫瘍の原発部位だけでなく全身のリンパ節に広がる転移巣消失を狙った「放射線・免疫併用治療法」の癌治療モデルの開発を行っている。当該年度は、リンパ節転移・担癌動物の作製を行うことに先立ち、放射線がん治療が及ぼす免疫系への影響について腫瘍移植マウスを使用して調べた。3種類の癌細胞株EG7、LLC-OVA、B16のそれぞれをC57BL/6マウスの脚部に移植し、腫瘍サイズが直径6-8mmに成長したところで脚部にX線照射を行った。照射5-7日後に所属リンパ節である鼠頚部リンパ節と腫瘍塊を取り出し、それぞれの内部に存在するリンパ球中の癌特異的キラーT細胞の割合をフローサイトメトリーにて調べた。その結果、3種類の腫瘍株ともに、所属リンパ節内、腫瘍内リンパ球で癌特異的キラーT細胞の割合が非照射群に比べて照射群で上昇していた。また、照射の際にマウスへ抗CD8抗体を静注し体内のキラーT細胞を消去した状態ではX線の治療効果が弱まることがわかった。これまで放射線は腫瘍細胞だけでなくリンパ球をも殺傷し腫瘍に対する免疫を低下させると考えられていたが、実験結果から腫瘍局所への放射線照射は、逆に腫瘍に対する免疫を高めることがわかった。さらに放射線治療による腫瘍の縮小は放射線そのものによって腫瘍細胞へ直接傷害を与えた結果だけでなく、その結果誘導される免疫細胞(癌特異的キラーT細胞)による傷害も大いに関与していることがわかった。この結果から放射線治療とがん特異的キラーT細胞を増加させる免疫治療と併用は、放射線治療のみでは根治が難しい遠隔転移巣をも増幅したキラーT細胞により消失できる可能性があると推察している。
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