研究課題
本研究の目的は、正常細胞とがん細胞が分泌する因子が放射線感受性を変化させるか否かについて調べることである。21年度の目標であった、分泌因子の影響を調べるための共培養実験系の確立を試みた。これは、LacZ導入がん細胞株を樹立し、正常細胞との共培養の際、がん細胞のみβ-Gal陽性細胞として青色に染まることを利用し、それぞれの細胞を区別しやすくするための手法である。U251、RKO、HeLaの各がん細胞株にLacZ遺伝子含有プラスミドを導入した。しかし、導入効率は良かったものの、β-Gal陽性細胞の割合は極めて低く、現在、手法の改善を検討中である。一方、放射線照射細胞からの分泌因子による影響は、照射細胞の培養上清を非照射細胞へ処理する系(メディウムトランスファー法)でも解析できることから、この系を確立した。この手法を用いて、照射細胞の培養上清が突然変異誘発、細胞内酸化レベル、DNA損傷に影響を及ぼすか否かについて検討を行った。その結果、CHO細胞へ4GyのX線を照射さいた際、培養上清を非照射細胞へ処理すると、突然変異頻度が約2.5倍高くなることが分かった。この突然変異の増加はアスコルビン酸処理により顕著に抑制された。細胞内酸化レベルについては、顕著な変化は見られなかったが、遅発性誘発長寿命ラジカルの生成が分泌因子の作用により細胞内で生成することが分かった。また、DNA損傷の誘発については、微小核形成を指標に検討をしたが、CHO細胞では顕著な誘発効果は見られなかった。メディウムトランスファー法の結果を総合的に考察すると、照射細胞が分泌する因子は、致死的な影響は極めて少なく、非致死的な突然変異生成などの影響が大きく表れることが示唆される。従って、がん組織における放射線照射された細胞が分泌する因子は、劇的な細胞環境の変化をもたらすのではなく、比較的持続的に非致死的な影響をもたらす可能性が示唆される。
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