がんの微小環境はその治療効果に影響を及ぼすことから、機構の解明が必要とされている。本研究において、細胞集団が分泌する液性因子が放射線感受性に及ぼす影響を調べた。その結果、X線照射された細胞は分泌性因子の質や量を変化させていることが示唆された。これは照射細胞の培養上清を経時的に回収しそれを未照射細胞へ処理する実験により明らかになった。本研究において、分泌因子が作用した細胞内のミトコンドリアの膜電位活性が低下するということがわかった。この現象は比較的短時間で及ぼされていることがわかった。さらに、ミトコンドリア膜電位の低下から1時間後の段階で、ミトコンドリア内の活性酸素レベルが急激に増加することが分かった。このことから、放射線照射された細胞の周りでは分泌因子の作用を介したミトコンドリアの膜電位の低下、それに続く活性酸素の生成が引き起こされる可能性が示唆された。直接照射された細胞においても、照射後にミトコンドリアの膜電位低下が見られたが、その変化のレベルを比較すると分泌因子を介した場合と大差がなかった。このことは、細胞がミトコンドリアの膜電位を変化させる過程は、放射線による細胞内損傷の程度に依存しないと考えられる。また、放射線照射細胞の培養上清に分泌される因子は、未照射細胞処理において遺伝子突然変異を引き起こすことがわかった。さらに、突然変異の生成や発がんに関わる長寿命ラジカル(Koyama et al.1998 Mutat Res)のレベルもこの分泌因子の処理により増加することがわかった。本研究において明らかになった分泌因子を介したミトコンドリア機能変化は、細胞のセンサーとそれに対する応答システムであると捉えることができる。がんの微小環境においても、様々な抵抗性獲得機構にこのような応答システムが利用されている可能性が考えられる。
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