PETを用いた神経受容体濃度測定において、高精度かつ頑強に画素別で受容体濃度指標を推定することで、PET定量画像作成を実用的に可能とするアルゴリズムの構築を目標とし、平成21年度は、工学分野で盛んに研究されているパターン認識と、医学薬学分野で古くから検討されている薬物動態解析手法(コンパートメントモデル解析法、グラフ解析法)の融合を試みることで、推定精度の向上を図った。具体的には、グラフ解析法で良く用いられる、薬剤投与から一定期間後の過渡平衡状態を利用した母数の削減を本研究でも積極的に取り入れた。母数削減により頑強性は増す方向へと動く。さらに、パターン認識で用いられている主成分分析による次元縮約の考えを取り入れ、PET画像に付加されている雑音をより効率的に除去し推定精度の向上を図った。パターン認識では入力側の規則性を明示できないことが多々あるため、縮約の程度などは試行錯誤となるが、本研究ではグラフ解析法における過渡平衡を利用したため、推定すべき母数は振幅項の1つに絞ることができ、次元も1次元まで縮約可能とした。本手法をアデノシンA2A受容体に対する放射性リガンドを用いたPET検査を想定した数値シミュレーションに適用したところ、指標である総分布容積の推定バイアスを±1%以内に抑えることが可能で、従来のグラフ解析法であるLogan graphical analysisの-8%よりも小さく、先行研究にある主成分分析を盲目的に使用した手法と同等の性能を発揮した。さらに、疾患等による検査目的部位の受容体濃度の変化に対して、先行研究とは異なり、提案手法の推定バイアスは±1%以内に保たれていた。しかしながら、提案手法は過渡平衡を積極的に取り入れたため、過渡平衡以前のデータを破棄せざるを得ず、測定点の減少に伴い推定分散(変動係数)は先行研究の10%以下よりも上回る結果(10~15%)となった。実験の結果を受け、非線形の次元縮約による推定分散低減を目標に手法改良を検討している。
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