研究概要 |
放射線、特に重粒子線の転移に対する影響は未だに明らかではない。しかし、炭素線治療のように局所制御が優れた治療でこそ、転移制御による生存率向上が極めて重要な課題となる。本研究では、上記の問題に資する基礎データの取得を目的とし、マウス悪性黒色腫の転移に対する炭素線及び光子線照射の効果を動物/細胞実験で評価する。 1. 動物実験:臨床で用いられる炭素線6cm拡大ピークビームの中心部(以下、炭素線SOBP)と基準放射線としてγ線(^<137>Cs)を用いた。 (1) C57BL/6Jマウスに移植したB16/BL6腫瘍に局所照射を行い、照射後の肺転移数の変化を調べた。この実験では、マウスの死亡を防ぐため照射後3日の時点で局所腫瘍の切除を行った。炭素線照射後、γ線に比べ顕著な肺転移の抑制が線量依存的に観察された。 (2) in vivo-in vitro assayにより腫瘍内細胞の生存率を算出し、炭素線SOBPとγ線の等量を照射した場合、γ線では非照射に比べ肺転移数の減少率は約90%であったが、炭素線SOBPでは約69%まで減少した。 2 細胞実験:3種のLET(13、50及び75keV/μm)を有する炭素線と基準放射線としてX線(200kVp,20mA)を用いた (1) 照射後の細胞生存率をココニー形成法で求めた。各LETの炭素線のRBEは、それぞれ1.3,2.0及び2.5であり、炭素線の優れた細胞致死効果が確認された。 (2) Boyden chamber法を用いて、各放射線の遊走能及び浸潤能抑制効果を調べた。炭素線照射後は低線量域でも顕著な抑制効果が観察されたが、X線照射後は一過性の亢進が観察された。遊走能及び浸潤能抑制にかける炭素線のRBEは、細胞致死から得られたRBEより大きな値を示し、転移能に対する炭素線の優れた抑制効果が示唆された。
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