放射線、特に重粒子線の転移に対する影響は未だに明らかではないが、炭素線治療のように局所制御が優れた治療でこそ、転移制御による生存率向上が極めて重要な課題となる。本研究では、上記の問題に資する基礎データの取得を目的とし、マウス悪性黒色腫の転移に対する炭素線及び光子線照射の効果を動物/細胞実験で評価する。 動物実験:平成21年度に得られたγ線および炭素線6cm拡大ピークビーム(以下、炭素線SOBP)中心部分(LET≒50keV/μm)に加え、比較的低LETである炭素線SOBP入り口部分(LET≒15 keV/μmでの照射を行った。 (1)C57BL/6Jマウスに移植したB16/BL6腫瘍に照射を行い、照射後の肺転移数の変化を調べだ。マウスの死亡を防ぐため照射後3日で外科的に腫瘍を切除した。炭素線照射群では、SOBP中心部と同様に入り口部照射でもγ線に比べ顕著な肺転移の抑制が観察された。 (2)in vivo-in vitro assayにより腫瘍内細胞生存率を求め、入り口部照射で生存率が10%に減少する線量(10%生存率線量)を算出し、その線量での肺転移数変化率を求めた。昨年度のデータと比較し、低LET炭素線でもγ線に比べ等効果線量で顕著な肺転移数の抑制を示した。 細胞実験:3種のLET(13、50、75keV/μm)を有する炭素線とX線を用いた。 48穴Cell Adhesion Assay(Collagenコート)キットを用いて、各放射線照射後のB16/BL6細胞の接着能変化を調べた。昨年度報告した遊走能および浸潤能で見られた低線量X線に対する一過性の亢進は接着能では観察されず、X線および炭素線どちらに対しても線量依存的な抑制効果が見られた。接着能抑制で求めた炭素線のX線に対する効果比は細胞致死から求めた効果比より大きな値を示し、手に能抑制と言う観点での炭素線治療の有用性が示唆された。
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