原爆投下後60年以上が経過しても原爆被爆者における肺がんの過剰相対リスクは未だに高い。しかしながら、放射線被曝が長期間にわたり肺がん発生に影響を及ぼす分子機序は未だ不明である。そこで本研究では、原爆被爆者保存肺がんで観察される分子的変化を解析し、被曝線量との関連を、喫煙を含む病理・疫学的因子を考慮した分子疫学的手法により検討し、原爆被爆者肺がんの分子腫瘍学的特徴を明らかにする。この分子疫学的手法と、培養細胞を用いた基礎実験を並行して行うことにより、原爆被爆者肺がんの発生機序を理解することを本研究の目的とした。これまでの原爆被爆者保存肺がん組織とその周辺部の非がん組織におけるレトロトランスポゾンLINE-1のメチル化状態のCOBRA法による解析から、原爆放射線被曝がゲノムDNA全体のメチル化に影響を及ぼしたことが示唆された。一方で、その放射線によるLINE-1のメチル化の変化の範囲は数%と小さかったことから、放射線のゲノムDNA全体のメチル化への影響を明確にするために、他のトランスポゾンAluのメチル化状態のCOBRA法による解析条件の検討を行った。また、前年度に続き、培養細胞を用いた基礎実験からも放射線照射によるメチル化の変化を調べるため、ヒト肺腺がん細胞株A549およびヒト気道上皮細胞株BEAS-2Bに対して複数の条件下でX線を照射した後のLINE-1のメチル化を解析中である。
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