重症糖尿病患者に対する膵島移植医療において、質の高い膵島を安定して得る方法の確立は移植成績の向上に直結する重要な課題のひとつである。本研究では、保存過程の虚血状態や、37℃の閉鎖回路内で行われる膵島分離工程での溶存酸素濃度の低下による膵島損傷を解決するために、膵臓摘出直後から膵島分離終了までの間継続して酸素供給を供給するシステムを確立し、質の高い膵島を安定して回収することを目的とする。本年度は、保存段階における膵組織の酸素化を効率よく行うために酸素化人工ヘモグロビンが有効であるかどうかを検討した。実験モデルは人工ヘモグロビンを保存前に膵管内に注入し、膵管保護および内部からの組織酸素化を意図したPre-ductal injection実験、および保存液として使用し外部からの浸透での組織全体の酸素化を期待した保存実験の2つの系とし、生理食塩水をコントロールとした。4℃で10時間保存した後の膵臓からコラゲナーゼを用いて膵島を分離し、収量、形態、機能(ADP/ATP、ATP/DNA、呼吸S.I.)を評価した。その結果、現在膵組織保存で広く使われているPerfluorochemica(PFC)ように分離膵島にまで影響が残らず、実験中の酵素による消化の過程での明らかな消化阻害は見られなかった。しかしPre-ductal injection実験では、形態に差はなかったが、他のすべての項目で生理食塩水群を下回り、保存実験では、形態を含めすべての項目で生食群が上回っていた。次年度においては、保存膵組織の酸素化においては膵管からの酸素を飽和させた保存溶液の持続注入の効果を検討し、さらに分離工程においては、中空糸モジュールを使って分離回路内を効率的に酸素化することで、分離膵島の質が向上するかどうかを、大動物モデル(ブタ)を用いて検討する予定である。
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