研究概要 |
肝細胞癌の多くは慢性肝炎,肝硬変を背景に多段階の発癌様式を示すことが明らかになってきた.肝炎の治療法として,インターフェロンや核酸アナログ製剤を中心とした抗ウイルス療法が用いられているが,効果的な発癌予防策はないのが現状である.我々は世界に先駆けて血小板を増加させる増殖因子であるトロンボポエチンとそれによって増加した血小板による肝線維化抑制効果および肝障害を有意に抑制することを明らかにした.本研究の目的は肝癌の発生母地である線維化肝に対してトロンボポエチンの継続投与による血小板増加によって肝障害抑制,肝線維化抑制効果を持続させ,肝細胞癌の発癌抑制効果を明らかにすることである.加えて本研究ではトロンボポエチンが癌進展を促進しないことを明らかにする. 平成21年度はトロンボポエチンや血小板がヒト肝細胞癌に対して過剰な細胞増殖を起こさないことをin vitroのモデルで検討し,トロンボポエチン/血小板治療の安全性を確認した.具体的にはHepG2,Huh7,Hep3Bの3つのヒト肝癌細胞株に対するトロンボポエチン受容体c-Mp1の発現をRT-PCRにて確認した.正常ヒト肝組織,肝硬変,ヒト肝細胞癌の組織におけるc-Mplの発現をRT-PCRにより検討した.また各種肝癌細胞株にトロンボポエチンおよびヒト血小板を添加し,増殖能,シグナル伝達系の解析を行い,HGFやEGFと比べてトロンボポエチン/血小板に過剰な腫瘍増殖効果のないことを確認した. またトロンボポエチン/血小板による肝細胞癌発症抑制効果を検証するために,肝臓に効率よく自然発癌を起こす系の開発が必須である.癌抑制遺伝子Ptenの肝臓特異的ノックアウトマウス(Pten CKOマウス)は脂肪肝を背景に肝細胞癌を自然発癌する.現在このモデルに対してトロンボポエチン投与によって肝細胞癌の発癌を抑制できるか検討中である.
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