研究概要 |
肝細胞癌の多くは慢性肝炎,肝硬変を背景に多段階の発癌様式を示すことが明らかになってきた.我々は世界に先駆けて血小板を増加させる増殖因子であるトロンボポエチンとそれによって増加した血小板による肝線維化抑制効果および肝障害を有意に抑制することを明らかにした.本研究の目的は肝癌の発生母地である線維化肝に対してトロンボポエチンの継続投与による血小板増加によって肝障害抑制,肝線維化抑制効果を持続させ,肝細胞癌の発癌抑制効果を明らかにすることである.トロンボポエチン/血小板による肝細胞癌発症抑制効果を検証するために,肝臓に効率よく自然発癌を起こす系が必要である.癌抑制遺伝子Ptenの肝臓特異的ノックアウトマウス(Pten CKOマウス)は脂肪肝を背景に肝細胞癌を自然発癌するモデルとして知られている,平成22年度はこのモデルに対してトロンボポエチン投与によって肝細胞癌の発癌を抑制できるか検討した.Pten CKOマウスは40週齢で非アルコール性脂肪性肝炎を呈し,75週齢で肝細胞癌を発癌することが報告されている.40週齢のPten CKOマウスの雄および雌を用いて週一回トロンボポエチン(TPO)を腹腔内投与するTPO群と投与しない対照群を作成し,35週間経過を観察した.検討項目は血小板数、肝機能、生存率、肝癌発生率である。TPO投与によって血小板数は有意に増加した。肝機能は2群間で有意差を認めなかった。生存率は雄では有意差なく,雌ではTPO群の生存率が有意に向上した。肝癌発生率は雄では両群に差が見られなかったが,雌ではTPO群の肝癌発生率が減少した.卵巣細胞にTPO受容体であるc-Mp1が発現し、TPOが卵巣細胞からエストロゲンを放出させるという報告がある.またエストロゲンは非アルコール性脂肪性肝炎の抑制作用があることが報告されている.今回TPO投与によって雌の生存率に有意差を認めた要因としてTPOの血小板増加効果およびエストロゲン増加作用が考えられた.TPO投与は限定的ではあるが肝癌抑制効果を有する可能性が示唆された.
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