移植医療は実験的医療の域を脱し、世界中で多くの末期臓器不全患者に恩恵をもたらしているが、更なる発展のためにはドナー拡大を長期成績の向上が望まれる。本研究"移植医療の革新のためのグラフト急性炎症を標的とした包括的治療戦略の開発"では、移植後急性炎症を標的とし、臓器移植後に生じる虚血再灌流障害、急性・慢性拒絶反応を包括的に制御することを目標としている。研究初年度は主に虚血再潅流障害に主眼を置き、以下の実験を行った。 ラット肝虚血再潅流障害モデルの構築 虚血再潅流障害モデルとしてより現実に近い(部分肝でなく)全肝の虚血再潅流障害モデルを用い、予備実験を行った。8-11週齢の雄性ラットの30分間の全肝虚血にて障害を加え、経時的に血清を採取し、肝障害を評価した。死亡例なく評価可能であることが確認され、肝障害のピークは3-6時間後であることが確認された。モデル自体は文献的に広く用いられているものであるが、以後の研究に耐えうることが確認された。 エリスロポイエチン誘導体による虚血再灌流障害の制御 エリスロポイエチン製剤による臓器保護効果は心臓・腎臓を中心とする臓器で研究されている。今回、エリスロポイエチン誘導体で血中半減期が長いことからより臓器保護効果が高いと思われるダルベポエチンを用い肝虚血再潅流障害における肝保護効果を検討した。上記のモデルを用い、ダルベエポチン30ug/kgを肝障害直前に静脈投与し、6時間後に偽性死させてコントロール群と比較した。血清中AST値はダルベエポチン群で低い傾向が見られた。今後、血清中・組織中の炎症性サイトカイン定量、組織切片によるアポトーシスの評価を行う予定である。
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