移植医療は実験的医療の域を脱し、世界中で多くの末期臓器不全患者に恩恵をもたらしているが、更なる発展のためにはドナー拡大を長期成績の向上が望まれる。本研究"移植医療の革新のためのグラフト急性炎症を標的とした包括的治療戦略の開発"では、移植後急性炎症を標的とし、臓器移植後に生じる虚血再灌流障害、急性・慢性拒絶反応を包括的に制御することを目標としている。本年度は以下の知見を得た。 1:最近開発された新規臓器保存液ポリゾルはグラフトの低温下持続灌流保存を念頭において開発され、低粘稠性で高い緩衝能・抗酸化作用を持ち、臓器保存中のグラフトの代謝の可能性を考慮してアミノ酸・ビタミンが添加されていることを特徴とする。ウィスター種ラットを用いた同所性肝移植モデルにおいて、16時間の移植肝冷保存を行い、ポリゾルとUW液の臓器保存効果を比較した。移植後6時間時点で移植肝の微小循環血流量はポリゾル群で高い傾向を認めた。一方で肝逸脱酵素値はポリゾル群で高く、肝細胞障害が強い可能性が示唆された。 2:小腸移植では、移植片の筋層に手術操作・虚血再潅流障害・免疫反応が複雑に絡み合って著明な炎症を生じる。拒絶反応の生じるアロのラット小腸移植を行い、臨床で用いられている免疫抑制剤であるタクロリムスとシロリムスの効果を検討した。2剤は共に移植後24時間から移植小腸筋層の炎症を抑制した。2剤の比較では、シロリムスのほうがより強い炎症抑制を示唆する結果であったが、一方でタクロリムスの方が組織学的な急性拒絶反応をより強く抑制した。
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