研究概要 |
消化器癌に対する治療には様々なものがあるが,その治療成績は十分なものではない.癌に対する治療成績向上のためには,このような転移・再発を含めた疾病制御が必須である.本研究では,マイクロRNA (micro RNA : miRNA)に焦点をあてて研究した.miRNAは,長さ20-25塩基から成るタンパク質へ翻訳されない小さなRNAであり,ターゲットとなるmRNAと結合することによって遺伝子の発現を抑制し,正常における発生・分化・増殖など様々な生命現象に関わっているのみならず,癌においても重要な役割を果たす.最近,一群のmiRNAがヒトの皮膚癌において,未分化性の獲得を誘導したという報告があることから(Lin SL et al. RNA 2008), miRNAは消化器癌においても未分化性の誘導・治療応用を実現できる可能性が示唆される.本研究では上記のmiRNAを消化器癌に導入することで,消化器癌における未分化性の獲得を目的とし,幾つかのmiRNAを導入することで未分化性の獲得や細胞の形質変化を誘導できるか否かを,試験管内の遺伝子導入後に以下の如く追跡調査した.フローサイトメトリーによる細胞周期解析,細胞増殖能の評価,細胞形態評価,エピジェネティックな変化の程度の評価,実際に未分化性の誘導・維持を行うとされている各種遺伝子(c-myc, sox2, oct3/4, klf4, lin28, Nanogなど)の発現状況の解析,網羅的遺伝子発現解析によるES細胞との類似性の評価を実施した.今後,この方法で未分化性を誘導する方法が完成出来れば,創薬を通じた医学応用に向けて,癌治療で注目されている癌幹細胞をターゲットとした治療方法等の開発が進むと期待される.
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