我々がこれまで行ってきた胎仔肺組織を用いた組織移植の生着メカニズムについて検討した。まず、これまで同様の方法で、胎齢17日の胎仔肺組織を採取し、これを同系の成体の左肺に移植する。この手技に関しては、これまでと同様の方法であり、安定したモデルの作成は可能であった。その後、経時的に犠牲死させ、胎仔肺の発達に重要とされるTTF-1について免疫組織学的に検討した。TTF-1は肺形成初期の肺芽期に気管や気管支になる領域の表皮に発現しはじめ、肺の形態形成において重要な因子である。SP-BやCCSPなど肺胞上皮細胞や気管支上皮細胞などのマーカーの発現にも重要な役割を果たしていることが知られている。そこで、移植1週後と4週後のモデルに関してH-E染色に加えてTTF-1の免疫染色を行った。H-E染色では、1週後は腺様期の形態に加えて一部管状期の形態を示した。しかし、4週後では、肺胞腔の拡大を伴った肺胞形態の形成が認められていた。TTF-1の免疫染色では、比較的大きな管腔の気管支上皮や終末細気管支芽が染まった導管では全体的に染色され、肺胞道では、先端部分が染色された。しかし、4週後では、肺胞上皮では染色されず、気管支上皮のみに一部染色された。 以上の結果から、4週後では、形態的に肺胞への分化がより進んでいるために、分化誘導因子であるTTF-1の発現が低下していることが示唆された。また、1週後では、分化能の旺盛な細胞の多くにTTF-1が染色され、肺胞道の先端部では、TTF-1が発現しており、この部分が分化誘導に重要な働きを持つと考えられた。我々が行っている胎仔肺組織移植においても肺胞形成においてTTF-1が重要な分化誘導因子であることが示唆された。
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