腹腔内手術後の腸管癒着形成に伴う腸閉塞、疼痛及び女性患者における不妊は高頻度な術後合併症であるが未解明であった。我々はすでに、定量的な癒着を惹起しうる癒着形成マウスモデルを用いて、腸管に外科侵襲を加えた後、局所のNKT細胞から分泌されるIFN-γが凝固線溶系を制御して癒着形成に重要な働きを為す事を発見し、HGF投与はIFN-γ/PAI-1を共に制御して癒着形成を抑制する事を解明しているが、今研究においてこれらの癒着形成メカニズムのさらなる解析を行った。また、他動物や他臓器においても普遍的なメカニズムであるかを検討した。(1) マウスにおける癒着メカニズムのさらに詳細な検討を癒着形成マウスモデルを用いて解析した。腸管傷害後24時間までに腹腔内では多くのケモカインの増減が認められ、それらの多くはIFN-γ/NKT cellによって制御されている事が判明した。また、いくつかのMMPが癒着に関与する事も判明した。(2) ラット腸管に外科侵襲を加える事で定量的な癒着を惹起する癒着形成ラットモデルを独自開発し、解析したところ、ラットにおいてもIFN-γ/PAI-1/tPAの動態はマウスと共通しており、HGF投与により、PAI-1を抑制し、tPAを増強させて癒着を抑制しうる事を証明した。(3) 定量的な癒着を惹起できる癒着形成肝切除マウスモデルを新規に樹立し、実質臓器である肝臓の術後癒着形成メカニズムを解析したところ、IFN-γがやはり癒着の中心的な役割を果たしており、PAI-1/tPAの凝固線溶系を制御している事を解明した。また、HGF投与により、IFN-γ/PAI-1を共に抑制し、治癒過程を妨げる事無く癒着を予防可能である事も証明した。実質臓器においても癒着形成メカニズムは共通している事が証明された。現在、上記、(1)-(3)の研究結果はそれぞれ投稿準備中であり、近日中に投稿予定である。また、ほぼすべての研究計画を遂行し、十分な研究成果が得られた。
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