今年度は、ヒト肝細胞癌組織における、癌部、非癌部でのMTA-1、HIF-1αならびにVEGFの発現を免疫組織学的に解析した。その結果、MTA-1は癌部で強発現されているが、非癌部ではほとんど発現していないことが明らかになった。一方HIF-1αは癌部、非癌部のいずれにも発現されているが、その発現強度には差は認められないものの、逆に非癌部での発現が強い傾向にあった。また、VEGFは癌部で発現は認められるものの、その分布は一定ではなく、特に結節の中心部に強い傾向が見られた。また、非癌部でも発現がみられたが、癌部に比較して強度は極めて弱かった。以上のことから結節内にはMAT-1が発現し、VEGFも発現しており、両蛋白が転移に関与している可能性が示唆されたが、HIF-1αの関与は重要ではないと推測された。一方、非癌部ではHIF-1αならびにVEGFの発現が顕著で、転移形成に関与すると考えるよりも、ウイルス慢性肝炎を背景にした発癌に大きく関与していることが示唆された。また、肝細胞癌結節はnodule in noduleの形態を示すことはよく知られているが、中心部に位置する分化度の低い結節がより転移に関連するVEGFを発現していることが明らかになった。これらの検討は、今年度は肝内転移症例を対象に行ったが、肝細胞癌は多中心性発生という特殊な病態をとることが知られており、同時に施行していたデータベース作成過程で予後が判明している肝外転移である、肺転移症例3例、リンパ節転移症例2例を対象に、来年度も同様の検討を加える予定である。この結果により肝内転移との差異が明らかになり、多中心性発生の病態解明にも寄与することが期待される。さらに来年度は、今年度の結果が蛋白レベルの検討であったことから、mRNA解析を行うことにより各蛋白間のカスケードを明らかにする予定である。
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