肝細胞癌におけるMTA-1の発現は、従来報告されているように腫瘍径、脈管浸潤、分化度とは我々の結果からは明らかな相関はみられなかった。したがってMTA-1は浸潤、転移に影響はあるものの、単独で強く関与している可能性は低いと考えられた。そこで、血管新生の程度を評価するためにCD31を、また同時に肝線維化を評価するためにα-SMAを免疫染色した。その結果CD31の発現強度と無再発生存期間は負の相関を有し、CD31の発現強度とα-SMAの発現強度は正の相関を示した。しかしα-SMAの発現強度と無再発生存期間の間には相関をみられなかった。また、一方でmacrophage colony stimulating factor (MCSF)が腫瘍の血管新生を促進するとの報告がある。このことから、我々は血管新生が腫瘍の増殖進展に直接関与し、さらに肝レジデントマクロファージを介した肝線維化を誘導し、間接的に腫瘍増殖のための微小環境を形成するとの仮説を構築した。そこで次にこのマクロファージの動態を検索した。表面抗原としてCD68マクロファージの分布とともに、MCSFに誘導されるといわれている表面抗原としてCD163マクロファージの分布を検索した。その結果、CD68マクロファージの数ならびにCD163マクロファージの数は単独では、無再発生存期間との関係を見いだせなかった。しかし、CD163マクロファージ数とCD68マクロファージ数の比率(CD163/CD68)と無再発生存期間の関係を検討してみると、両者にはp=0.0048、r=-0.4718で負の相関がみられた。すなわちMCSFに誘導されるCD163マクロファージがマクロファージの比率として多くなると腫瘍の増殖に関与することが明らかとなった。
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