研究概要 |
消化器癌患者の末梢血中あるいは腫瘍組織中から検出される多くのバイオマーカーの研究により、従来の病理学的因子を凌駕する予後・悪性度の新たな予測因子として報告されてきている。一方,基礎癌研究においては自己複製能を有する癌幹細胞の研究が盛んとなり、遠隔転移に関しても、癌幹細胞が上皮間葉移行することにより多臓器への遠隔転移を形成する概念も登場してきている。上皮間葉移行を誘導因子として、癌周囲stromaが産生する液性因子が報告されているが、単一因子に依存するものではなく、複数の因子が融合的に関係し癌に好条件の転移機構を構築している可能性が示唆される。 本年度はまず、当外科学講座にて大腸癌と診断され、術後遠隔転移再発を認めた症例と遠隔転移再発を認めない患者の末梢血を使用し,Human Cytokine Antibody Arrayにて特異的に再発症例で発現の高いサイトカイン、ケモカインの同定を行った。その結果として、CXCL10, MIP-3a, CXCL16, CXCL5が選別された。約200例の大腸癌患者の臨床病理学的検索を行い、これらのすべてのケモカンインが予後を規定し、さらに遠隔転移症例で有意に高いことが示された。現在これらのケモカインのレセプターを大腸癌組織にて免疫染色し、関連を検討する予定である。またこのケモカインがどの組織にて産生されているかを検討すべく研究中である。さらにこれらのレセプター高発現大腸癌細胞株をreal time PCRで確認し、これらのリガンドであるケモカインがレセプターを有する大腸癌細胞株にどのような影響を与えるかに関して(特に癌が遠隔部位に転移が誘発されるか否か)、マウスを用いたIn Vivoの実験に取り掛かる準備を行っている。この研究により新たな予後マーカーの開発、さらに同定されたケモカインにより転移が誘導されることが証明されたら、ケモカインおよびケモカインレセプターをブロックする製薬の開発など今後の新たな大腸癌治療において意義のある研究と考える。
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