肝細胞癌の浸潤能・運動能を制御する分子を同定し、その分子を標的として特異的に癌の浸潤や転移を阻止する方法を確立することが本研究の目的である。これまでに私たちはh-pruneとGSK-3が大腸癌細胞の運動能に必要であることや転移と相関することを報告した。h-pruneは複数の癌で浸潤転移能に深く関わっていると考えられ、h-prune・GSK-3複合体が肝細胞癌の浸潤・転移機構にどのように関与しているのかを明らかにすることは、新規分子標的治療法の開発につながると考えられる。本年度は、肝癌細胞株における細胞運動能を評価し、h-pruneのphosphodiesterase (PDE)阻害剤は細胞運動を抑制することを明らかにした。また肝内胆管癌の臨床検体におけるh-pruneの発現は既知の腫瘍マーカーであるCEAやCA19-9と相関し、予後に影響する傾向があった。引き続き、肝癌細胞の浸潤能、運動能におけるh-prune・GSK-3の役割を分子生物学的手法により評価している。またラット肝癌モデルを作成し、h-pruneに対するPDE阻害剤、またはGSK-3阻害剤を腹腔内投与することにより、肝癌の増殖、脈管侵襲、肝内転移、肺転移を抑制できるかどうか、生存率に影響するかどうかを評価する予定である。一方、h-pruneが甲状腺癌に特異的に発現していることを見出した。そこで甲状腺未分化癌細胞株で検討を進めた結果、h-pruneに対するsiRNAやPDE阻害剤は甲状腺未分化癌細胞の運動能、浸潤能を有意に抑制する結果が得られた。したがって、h-pruneは甲状腺癌の浸潤転移に重要な役割を有する可能性があるため、マウス甲状腺未分化癌モデルを作成し、甲状腺癌の浸潤転移におけるh-pruneの役割を検討する予定である。
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