研究概要 |
膵臓癌は極めて予後不良で従来の手術・化学・放射線治療に抵抗性を示すため、次世代型の膵癌治療戦略としてウイルス治療が期待されている。本研究の目的は抗癌剤や放射線治療がウイルス治療に及ぼす影響とウイルス治療を増強するメカニズムを検討することである。我々はこれまで、アデノウイルスを用いたウイルス治療が放射線治療と併用することで導入効率が増強することを示した(Clin Can Res, 2008, Egami)。本年度以下の3点について検討した。1.抗癌剤のアデノウイルス遺伝子導入効率に与える影響2.抗癌剤の制限増殖型アデノウイルス効果に与える影響3.アデノウイルス取り込み過程で導入効率に関係する因子の同定。結果を以下に示す。1.CMVプロモーターをもち治療用蛋白を発現するアデノウイルス(AdNK4)を用い、5FU、CDDP、Etoposideといった抗癌剤を投与することでAdNK4の感染効率が増強した(Egami, Can Sci, 2009)。さらに、膵癌の第1選択薬であるゲムシタビンと併用するとCMVプロモーターが活性化し導入効率が増強した(Onimaru, Can Gene Ther, in press)。2.制限増殖型アデノウイルスAd5/3hTERTE1を用い、抗癌剤を併用することでその感染効率、殺傷効果ともに増強した(Onimaru, Can Let, in press)。3.ウイルスの取り込みに関わるCAR、ダイナミン2、インテグリンαv、β3、β5等の放射線感受性細胞と耐性細胞による発現をRT-PCRにて比較し、インテグリンβ3の発現を抑制するとアデノウイルス感染が増強した(Egami, Can Sci, 2009)。来年度は、ウイルス感染とその取り込みに関わる責任分子の発現変動を症例ごとに評価し、ウイルス治療増感剤として適切なものを選択するという、個別化ウイルス遺伝子治療の可能性を模索する予定である。
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