本研究の目的は、胆嚢癌における浸潤、脱分化のメカニズム解明と間質の細胞、特に炎症細胞の役割について解明することである。本年度は特に大腸癌で予後と強い相関が報告されているTumor budding(TB)とTumor infiltrating lymphocyte(TIL)ならびにTILと相関すると報告されているMicrosatellite instability(MI)について解析を行う予定としていた。本学の倫理委員会において承認を得た上で、胆嚢癌手術症例の切除標本のパラフィン包埋ブロックを用いて解析を開始した。研究費交付前に前もって解析していた症例で、TBとTILに関してはそれぞれ第109回日本外科学会定期学術集会と第98回日本病理学会総会に演題登録していたが、解析症例を増やして報告した。胆嚢癌の脱分化やTBの頻度について研究した報告は今までなかったが、解析した症例のうち実に61.1%にTBが、53.7%に脱分化がみられ、TBや脱分化が胆嚢癌で比較的高頻度にみられる現象であることがあきらかとなった。TBに関しては臨床予後と相関がみられ、特に深達度が漿膜下層(SS)の胆嚢癌において予後との相関が強かった。SS胆嚢癌の治療方針については、外科系学会でよく議論になる項目であり、胆嚢癌の治療方針決定に有力な知見となる可能性がある。TILについては、予後と相関する傾向はみられたが統計学的な有意差は得られず、胆嚢癌にではTILは大腸癌ほど予後に強く関わるものではないことがあきらかとなった。以上の知見をまとめて第20回日本消化器癌発生学会総会で報告した。MIについては、20症例ほど解析を行ったが、研究が進み、TILが予後とそれほど相関しないことがあきらかになった点と、解析費用がかさむ点から中断することとした。 次年度は、さらに解析対象症例を追加し、対象症例のtissue microarrayを作成した後、浸潤炎症細胞の解析や癌の形態保持に関与する蛋白の発現状況についての解析を行っていく方針である。
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