肺移植におけるドナー不足を解消する手段として、近年、マージナルドナー肺や心臓死ドナー肺が、積極的に利用され始めている。このようなドナー肺の安全な利用のためには、ドナー肺の質を移植前に客観的に評価する必要がある。そこで、申請者は、体外循環回路を用いてドナー肺の質を評価し、さらに、治療を行うという計画を立案し、以下の研究を行うこととした。(1)ブタ傷害肺モデルを作成する(体外循環回路を用いた評価と肺移植後の評価を含む)(2)体外循環回路を用いた傷害肺の治療を検討を行う。 マージナルドナー肺、DCDドナー肺といった「傷害肺」を用いた肺移植の実現は、脳死ドナーが不足している本邦における肺移植をドナー不足から救うのみならず、1)レシピエントの手術成績向上、2)生体ドナーへの負担の回避、3)肺移植における合併症の回避による医療経済への好影響など、とくにわが国では、さまざまな観点から急務である。脳死に関しては、法制化されたものの、本邦では、脳死の概念はなかなか普及しない。こういった中で、従前からの「死体」であるDCDドナーの肺を利用することは社会的認容性が高く、劇的なドナー不足軽減が期待される。また、脳死ドナー発生が少ない現況で、マージナルドナーを有効に利用していくことは、当面の現実的な策として有効である。最後に、傷害肺の移植前評価系としての体外循環回路の確立により、DCDドナー肺の安全な使用のみならず、使用が敬遠されるマージナルドナーの使用の可否も客観的に判断可能となる。 われわれは、平成21年度の実験計画として、(1)ブタ傷害肺(マージナルドナー肺、DCDドナー肺)モデルの確立を掲げて実験を開始した。複数の傷害モデルを立案したが、マージナルドナー(肺水腫モデル)、脳死ドナー(脳死ドナーモデル)の二つのモデルが再現性をもった安定した傷害モデルとして使用できることを確認した。
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