肺移植治療における克服すべき問題点のひとつにドナー肺不足が挙げられ、その解消の一手段として心停止(DCD)ドナー肺移植が世界的に始まっている。一方、DCDドナー肺を使用して安全かつ有効な肺移植治療を行うためにはドナーの臨床状況に応じた肺障害評価が必要不可欠である。 本研究では、心停止ドナーを心停止導入条件の違いにより検討することにより、臨床的背景に応じたドナー肺の評価と利用を促進することを目的としている平成21年度は、まずラット肺Flush実験を行った。すなわち、異なる心停止導入条件によるラット肺の肺血管抵抗を肺血管床をFlushすることにより評価する。この実験により心停止導入条件による肺障害の違いと特徴を確認することができた。次に、我々が確立し、他の研究でもこれまでにその有効性を証明してきたラット体外循環モデルを用いて虚血再環流後のラット肺の生理学的機能解析を行った。すなわち280-320gのオスLewis ratを用いて、心拍動群、無呼吸群、VF群の3群(n=8)を設定した。無呼吸群、VF群では心停止後、150分の温虚血の後、20ml 4℃の細胞外液低Kデキストラン保存液を用いて20cm水柱より肺血管床のFlushを行ったのち、Total lung capacity(TLC)maneuverにより同一条件下に気道を十分に開存させた。心拍動群では心拍動下にFlushを行った後、同様にTLC maneuverを行った。ラット肺体外循環装置を用いて肺の生理学的検討を行った。この結果、ラット体外循環モデルにおける生理学的機能評価においては酸素化能、気道抵抗、再灌流中の浮腫では有意に無呼吸群、VF群、心拍動群の順で肺傷害は重度であった。また、再灌流後半では肺血管抵抗はVF群が無呼吸群と心拍動群よりも高いことが確認された。平成22年度はラット体外循環モデルでの生理学的機能評価の病態生理学的機序解明のため、これらの再灌流評価後のラット肺組織を用いて肺組織内高エネルギーリン酸化合物、病理所見、RT-PCRによるmRNA発現の評価その他の検討を行う予定である。
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