1. 研究目的:本研究は肺移植術後成績の向上とドナー数拡大を目指し、申請者がこれまでに大動物モデルによって得た、一酸化炭素(CO)吸入により肺虚血再灌流障害(IRI)抑制効果が得られるという結果を発展し、臨床肺移植に即したMHC完全不適合肺移植モデルを用い、CO吸入が移植肺生着延長への寄与を評価する目的で研究を行った。 2. 研究内容: 1) 移植手術中のドナー及びレシピエントへのCO吸入により移植肺の生存期間の延長が得られるか?(申請書【目的1】):12日間の高濃度持続FK506下(35-50ng/ml)の完全MHC不適合間肺移植時に、250ppmCO吸入を、ドナーに対しグラフト摘出までの180分、レシピエントに対し手術開始から移植肺再灌流2時間後まで390分行い、移植肺生存期間を評価した。CO無吸入例(n=6)では、28日から63日(平均47日)で拒絶されたが、CO吸入症例(n=5)では、5例中4例で63日以上の移植肺生存が得られた(平均82日)。また細胞増殖反応、細胞障害性試験では術後60日の時点でドナー特異的な反応性低下を認めた。 2) レシピエントCO吸入期間の延長により、更に移植肺生着期間が延長するか?(申請書【目的3】):ラット心移植モデルでは、術後1時間の250pmCO吸入を14日行うことで慢性拒絶反応の抑制効果が得られたという報告をもとに(Nakao A.Transplantation 2006)、移植時にドナーおよびレシピエントに対し1)と同様の250ppmCO吸入を行うことに加え、術後連日1時間、気管内挿管下に250ppmCO吸入を14日間行い、移植肺生存期間を評価した(n=3)。3例中2例で91日の移植肺生存が得られたが、1例は28日で拒絶し(平均70日)、CO吸入継続による更なる移植肺生存延長は得られなかった。 3. 研究の意義・重要性 本研究により、移植時CO吸入による移植肺生着延長効果が明確となった。しかし、術後CO持続吸入による効果は認めなかった。これは、ドナー肺のみのCO吸入という臨床応用性の高いモデルでもCO吸入効果が得られる可能性を示唆する結果となった(次年度の研究へと発展)。
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