交付申請書に記載した通り、マウス気管移植モデルの研究と臨床検体の蓄積を行った。臨床検体の蓄積は今後行う。以下にマウスの実験の意義、方法および結果を記載する。 肺移植後の慢性拒絶は、その長期予後に大きく関与している。肺移植後の慢性拒絶の病理像は、閉塞性細気管支炎(BO)の像を呈するが、その発生機序は不明である。 B6マウス由来の気管をC3Hマウスの皮下に移植(BOの動物モデル)し、術後1週間目、2週間目、および4週間目に犠牲死させリンパ球分画および組織学的評価を行った。その結果、同系移植片では組織学的変化を認めなかったが、異系移植片は組織学的にBO様変化が起きていることを確認し、免疫染色にて閉塞の原因の一つが線維芽細胞の増殖であることが確認された。 末梢血中の細胞障害性T細胞の割合および活性型リンパ球の割合は同系移植群と有意差を認めなかった。ヘルパーT細胞中、急性拒絶にてその割合が上昇するTh1は異系移植群で有意に上昇していた。また、Tregの割合は異系移植群で有意に減少していた。しかし、IL-6およびTh17の割合は末梢血中では有意差を認めなかった。 免疫染色にて移植片中の血管内皮や浸潤リンパ球中にIL-6を認めた。同系移植群ではIL-6はほとんど検出されなかった。移植片のIL-6およびIL-17のmRNAをRT-PCR法で測定すると、IL-6、IL-17ともに有意差をもって異系移植群で上昇していた。 同様の異系移植モデルを作成し、IL-6を中和抗体にてブロックしたものと、コントロールとしてIgGを投与したものを2週目に比較すると、IL-6の中和抗体モデルでは、組織学的はリンパ球の浸潤を認めるものの内腔の閉鎖を認めず、線維組織の沈着も認めなかった。また局所のIL-17のmRNA量はIL-6投与群で有意に減少しており、浸潤リンパ球はTh17でないことが示唆された。 この研究によりBOの発生にTh17が関与していることが示唆され、またIL-6をブロックすることによりBOの発生、つまり肺の慢性拒絶を予防できる可能性が示唆された。
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