交付申請書に記載した通り、マウス気管移植モデルの研究のまとめと臨床検体の蓄積を行った。臨床検体の蓄積は現在進行中である。以下にマウスの実験の意義、方法および結果を記載する。 肺移植後の慢性拒絶は、その長期予後に大きく関与している。肺移植後の慢性拒絶の病理像は、閉塞性細気管支炎(BO)の像を呈するが、その発生機序は不明である。 B6マウス由来の気管をC3Hマウスの皮下に移植(BOの動物モデル)し、リンパ球分画および組織学的評価を行った。その結果、組織学的には閉塞の原因の一つが線維芽細胞の増殖であることが確認された。 末梢血中のヘルパーT細胞中、急性拒絶にてその割合が上昇するTh1は異系移植群で有意に上昇していた。また、制御性T細胞の割合は異系移植群で有意に減少していた。しかし、IL-6およびTh17の割合は末梢血中では有意差を認めなかった。 免疫染色にて移植片中の血管内皮や浸潤リンパ球中にIL-6を認めた。移植片のIL-6およびIL-17のmRNAをRT-PCR法で測定すると、IL-6、IL-17ともに有意差をもって異系移植群で上昇していた。 同様の異系移植モデルを作成し、IL-6を中和抗体にてブロックすると、組織学的にはリンパ球の浸潤を認めるものの内腔の閉鎖を認めず、線維組織の沈着も認めなかった。また局所のIL-17のmRNA量は有意に減少しており、浸潤リンパ球はTh17でないことが示唆された。 この研究によりBOの発生にTh17が関与していることが示唆され、またIL-6をブロックすることによりBOの発生、つまり肺の慢性拒絶を予防できる可能性が示唆された。 平成22年7月の移植法改正後、急激な臨床業務の増加(これまで年間5~6件程度の肺移植数が、法改正後半年で20件以上)により、今年度は当初計画していた抗IL6受容体抗体投与BOモデルの作成と、その結果の解析が行えなかったが、当大学免疫学教室との共同研究により、BOの発生におけるIL-6の関与の機序解明が、当科との共同研究という形で行われ、発表した。現在論文のreviseを作成中である。
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