研究概要 |
再生医療において、肺実質に関しては困難な状況で、原因として肺の構造の複雑さが指摘されており、ES細胞(iPS細胞)からの誘導は極めて難しい。胎生晩期の胎仔肺は、肺としてのある程度の分化が進み、かつ増殖能旺盛な状態と考え、肺胞レベルでの組織再生を念頭に置き、ラット胎仔肺組織の成体肺内移植実験を行ってきた。胎仔移植片の生着・分化・増殖を明らかにし、その結果を多数学会発表した。H&Eの組織学的観察だけでなく、ドナー・レシピエント間の毛細血管レベル墨汁染色や走査型電子顕微鏡による超微形態、更に移植片のKi-67免疫染色による増殖能の評価も行った(K Kenzaki et al.J Thorac Cardiovasc Surg.2006, 131, 1148-1153)。 H22年度は、このラットモデルを用い更に以下の点を明らかにし報告した。【目的】ドナー胎仔肺(雄-LEW)とレシピエント成体肺(雌-LEW)を用いて、胎仔移植肺組織を検討する。【結果】SRY遺伝子のPCRで胎仔雌雄を確認し、Y染色体のFISH法により、ドナー胎仔肺は組織としてレシピエント成体肺内に再構築されるだけでなく、移植部位近傍にも細胞レベルで散在し、経時的に広がりを確認した。ある程度組織構築された胎仔肺だけではなく、胎仔肺中の肺再生に関連する細胞集団が存在し、レシピエント肺を遊走し生着・分化した可能性がある。(第110回日本外科学会定期学術集会サージカルフォーラム)。 今後は、組織移植だけではなく、細胞移植に踏み込めば、増殖因子の影響や再生/修復に携わる細胞集団の同定の重大なヒントになると考える。また、傷害肺の修復機能に携わる細胞集団が、癌のように脱統御性・自律性増殖するのではなく、修復終了に伴い自己複製を中止する「キー」にも触れる可能性がある。
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