これまで、三次元培養心筋組織を作成する為の至適な培養条件を探ってきたが、従来の報告より小さな収縮力しか発生しない、また、カルシウムに対する収縮力の上昇も認めないという問題点が改善できずにきた。今回の検討ではその原因の可能性がある、(1)コラーゲンの種類、(2)マトリゲル(細胞外マトリックスや成長因子の抽出物)の添加の有無に関して、(1)肉眼的観察、(2)顕微鏡的観察、(3)収縮力測定試験、(4)分子生物学的手法を用いて検討した。 本年度は、購入可能な2種類のコラーゲンについて従来報告されている自家製のコラーゲンと比較検討した。それら3種類のコラーゲンで作成したものは顕微鏡的に培養初期には細胞の拍動が観察され、培養の継続と共に一体化した拍動、また、収縮力測定を行う時期には肉眼的にも拍動が確認できる組織が形成された。しかし、従来のコラーゲンを用いて作成した組織を含め、全ての組織において、従来の報告より小さな収縮力しか確認出来なかった。また、本来持つはずのカルシウムに対する収縮力の上昇も認めなかった。リアルタイムRT-PCRによる検討では組織内の心筋細胞の割合が従来のコラーゲンを用い、マトリゲルを添加した組織で大きく、その原因がアポトーシスが抑制されていることが原因であることが明らかとなった。また、収縮タンパクの発現についても同様の条件で作成された組織でその他と比較して多いことも明らかとなった。カルシウムハンドリングを司る遺伝子の発現についは、今回検討した3つのコラーゲン内でほぼ同様の発現パターンであり、これまで報告されてきた発現パターンと異なることが明らかとなった。これらの結果から、小さな収縮力しかない、また、カルシウムに対する収縮力の上昇も認めないという問題点の原因はコラーゲン以外にも存在すると言うことが明らかになった。
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