平成21年度に続き、肺癌手術患者の肺癌組織からSP (Side Population)細胞のソーティングを行い、遺伝子変異の測定を行った。測定した遺伝子変異は、肺癌の発生に関与するEGFR、Kras、p53とした。ソートされたSP細胞とそれ以外の細胞との遺伝子変異の差異を検討しようとしたが、遺伝子変異の測定時のPCRが上手く働かなかった。細胞浮遊液作成過程に問題がある可能性があったが、主として細胞量が不足していた。その他のマーカーによる癌幹細胞のソーティングとしてCD133に注目した。CD133陽性細胞のソーティングを行い差異を検討した。肺腺癌のCD133陽性細胞の割合は1.8%から24.8%であった。肺腺癌が細気管支肺胞上皮癌である場合には、陽性細胞の割合は低かった。癌幹細胞の局在を検討するため、肺癌、特に多発肺癌に注目し、その局在を検討した。手術を施行した患者中、(1)単発肺癌294例、(2)2-3個多発肺癌21例、(3)4個以上多発肺癌10例に分け、その肺葉の局在を検討した。結果、多発する場合には特に右上葉に肺癌の発生頻度が高く、肺癌発生を促進する何らかの要因があると考えられた。次に、多発肺癌に焦点を当て、肺癌発生に遺伝子背景を検討した。4個以上の病変を有する症例の肺癌組織をマイクロダイセクションを行い、腫瘍組織のみを抽出し、遺伝子変異の測定を行った。EGFRに関して、Exon21 L858Rの変異を認めた病変が12病変中5個であり、残りはWild typeであった。Krasに関しては全例Wild typeであった。12病変中7個が右上葉であったが、右上葉に存在する病変ではExon21 L858Rの変異が多い傾向であり、多発肺癌の発癌に関与する可能性が示唆された。以上より、肺癌幹細胞は右上葉に多く局在する可能性が示唆され、発癌に特定の遺伝子変異が関与する可能性が示唆された。
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