本研究の目的はプリオンに効果的な現実的滅菌法を確立することである。前年度は異常プリオンタンパク質(以下PrP^<Sc>)のin vitro増幅系として注目されるProtein Misfolding Cyclic Amplification(以下PMCA)法を応用し、定量的解析に用いる系を確立したが、本年度は実際にこの方法を用いてプリオン滅菌法の効果を網羅的に評価した。市販の洗浄剤及び消毒剤を単独で用いる方法、または通常のオートクレーブ処理(121℃で15分)と組み合わせた比較的簡便な方法について、ハムスタースクレイピー263K株を用いて不活化効果を定量的に解析した。洗浄剤(市販の実験器具用アルカリ洗剤、中性洗剤、酵素入り洗剤)、消毒剤(過酢酸、グルタラール、フェノール等)を単独かつ室温状態で浸漬させた場合には、プリオンを十分に不活化することは不可能であった。しかしながら、0.1 M NaOH、あるいは市販のアルカリ洗剤に浸漬し通常のオートクレーブを行った場合6 log以上の感染性の低下が認められ、中性洗剤でも通常のオートクレーブ処理と組み合わせれば高い不活化効果(5.38 logの感染性低下)が認められることが明らかとなった。前年度にアルカリ洗剤に浸漬し70℃で30分熱処理する方法でプリオンを不活化できることが分かったが、汚染された器具類の高温煮沸処理などは寧ろ手技的に煩雑であり、周囲を汚染する可能性についても否定できないと考えられた。プリオンの不活化に推奨される135℃でのオートクレーブ処理には耐えられない器具類は多いものの、脳外科手術に用いられる内視鏡については通常のオートクレーブ処理やアルカリ洗剤程度のアルカリには耐性があるものが多い。従って、アルカリ洗剤(中性洗剤の使用も有効)に浸漬した状態で、通常のオートクレーブ処理を行う滅菌法が非常に効果的であることが明らかとなった。
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