神経膠腫は中枢神経系に原発する悪性腫瘍で、現在なお治療の困難な疾患である。腫瘍は正常脳組織に浸潤、増殖するために腫瘍摘出時に正常脳組織と腫瘍組織を肉眼的に識別することは非常に困難である。そのため腫瘍組織だけを選択的に可視化し治療する方法の開発が進められ、近年、ヘム前駆体ポルフィリンが利用されるようになった。ヘム前駆物質5-アミノレブリン酸(ALA)が癌細胞に特異的に取り込まれ、ミトコンドリアでALAからPpIXに生合成され、PpIXが赤色蛍光を出す。この赤色蛍光は肉眼で観察できるため、術中に正常脳組織と腫瘍組織をreal timeに識別する術中蛍光診断法(PDD)として悪性脳腫瘍の分野でも広く応用されるに至った。さらに現在、ALA induced Pp IXは光化学反応によって生じるフリーラジカルにて殺細胞効果を狙った光線力学的治療(PDT)へ臨床応用されている。ALA induced Pp IX、フォトフリン、レザフィリンなどの光感受性物質によるPDTが臨床応用されつつあるがその殺細胞効果の低さから満足のいく結果が得られていないのが現状であり、新規の光感受性物質の開発が待たれている。本研究では共同研究者である群馬大学工学部応用化学科助手堀内宏明先生らが開発したケイ素導入ポルフィリン誘導体を用いた。ポルフィリン誘導体にケイ素置換基を導入することにより殺細胞効果を持つ一重項酸素の発生効率が増加する。ヒト神経膠腫初代培養細胞を用いたin vitroの検討では培養液中に加えたケイ素導入ポルフィリン誘導体が細胞内に取り込まれ、レーザー光を照射することにより殺細胞効果を示すことが確認された。新規感受性物質であるケイ素置換基導入ポルフィリンを使用した光線力学療法のヒトの悪性神経膠腫治療への応用の可能性が示唆された。
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