本年度は、髄芽腫においてWnt signal pathwayを網羅的に解析して予後との相関を明らかにし、臨床応用可能な診断システムを確立することを目的として病理学的分類の再検討と分子遺伝学的解析を行った。 その結果、2007年改定された脳腫瘍WHO分類で追加された髄芽腫の亜型である「medulloblastoma with extensive nodularity」と「anaplastic medulloblastoma」がそれぞれ1例及び2例該当することが判明した。特に後者は予後不良とされる亜型であるが、1例は治療6ヶ月後に死亡し、残る1例は10年以上生存しており対照的な予後であった。この2症例に弁別式PCR法を行うと生存例ではN-mycの死亡例ではc-mycの遺伝子増幅を認めた。また研究者が本腫瘍の予後良好因子と発表したγ-catenin(Misaki、2005 J Neurosurg)を免疫組織化学で検討すると生存例でのみ陽性であった。この結果は再分類された病理診断によっても予後を完全には予測できないが、分子遺伝学的診断により予後を判定し得ることを示す新たな知見と考えられた。 また本腫瘍で予後不良の原因である髄腔内播種が引き起こす水頭症についても臨床的検討を行った。その結果、水頭症の治療であるシャント手術を行うと全身状態が不良であったり手術中に止血操作が必要であると術後に脳出血を合併しやすいことを論文で発表した。 来年度は、可能な限り症例数を増やしてWnt signal pathway上の関連因子を網羅的に解析することにより作用機序を明らかにする。その上で臨床データも統合して臨床応用可能な診断システムを構築し個々の悪性度に応じた治療方針を決定する診断システムを作成する予定である。
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