本研究では、脳梗塞発症後超急性期の脳表血流変化を観察すべく、新しい脳表血流モニタリング装置であるレーザースペックル血流計(以下LSF)を導入した。また、脳梗塞発症前~発症後3時間という超急性期の観察を行うために『遠隔的中大脳動脈閉塞モデル』を使用した。具体的には、雄性Wisterラットの左内頸動脈にPE50カニューレを留置し、LSFによる左大脳半球脳表血流の連続モニタリング下に約300μmのビーズを注入し、脳梗塞を発症させた。本実験系により以下の2つの現象が明瞭に描出された。 1.LSFによりビーズ注入後の脳虚血巣発生がリアルタイムに確認でき、閉塞血管の違いにより2パターンの虚血巣が作成された(7例中6例はMCA閉塞による脳梗塞が、1例は前大脳動脈(ACA)閉塞による梗塞が作成された)。本手法により脳梗塞モデルの定番ともいえるMCA閉塞のみならずACA閉塞も可能であることが示された。 2.発症直後より多数の虚血巣周辺部の脱分極波(peri-infarct depolarization:PID)の発生が描出された(5分に1イベント程度の頻度でPID発生が認められた)。特筆すべきは、LSFによりPID伝播様式も可視化できたことで、これまで信じられてきた『放射状伝播』ではなく、虚血巣周辺に沿うように伝播する『接線方向の伝播』が大多数を占めていた。接線方向に伝播するPIDは虚血中心部に沿いペナンブラ体に伝播するため、脳梗塞二次性増大の一因になっている可能性が示唆された。 以上のように、LSFを用いることでMRI、PETなどの従来の検査では検知不可能であった『虚血巣周辺部におけるPID伝播』の可視化が可能となったが、今後は『PID伝播と脳梗塞拡大の関連性』についてさらなる研究を行う予定である。
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