研究概要 |
我々はDNAトポイソメラーゼII(トポII)の機能解析を行っている過程で,トポIIを標的とする複数の阻害剤がトポIIβの選択的な分解を引き起こす事を見いだした。トポIIの阻害剤は抗腫瘍剤として用いられており,その感受性はトポIIの発現量と相関があり,トポIIβの分解機構の解明は臨床的にも重要だと考えられる。本研究課題では,エトポシド(VP-16)とICRF-193を用い,両薬剤によるトポIIβの分解過程の違いに注目し,その分子機構の解明を試みた。特に,トポIIβ分解機構におけるSUMO修飾の役割に注目して解析をおこなった。 ICRF-193によって活性を阻害されたトポIIβはクロマチンにクランピングし,その後分解されるが,トポIIαは同じくクランプを形成するにもかかわらず分解されない。この違いは両者の構造や作用している時期・局在などに因ると考えられる。トポIIβは分解に先立ってSUMO-2/3により修飾される事が判っている。SUMO化のE2であるUbc9が発現していない変異細胞をもちいた解析から,この分解過程にはSUMOによる架橋反応が初期シグナルとして必須であった。トポIIβのアミノ酸配列からSUMO化部位(ψKXE)を探し,リジン残基をアルギニンに置換した変異型トポIIβを構築した。この変異型トポIIβでは,最初に起こる修飾が阻害され同時に分解も抑制された。免疫沈降-ウェスタンブロットやマススペクトル解析から,このリジン残基の修飾はSUMO-2/3による事が明らかとなった。この修飾はクロマチンにクランプしている時に起き,それだけではクロマチンからリリースされなかった。このSUMO化部位はトポIIβのみに存在しトポIIαには認められない事から,トポIIαとβのクランプ形成後の処理のされ方の違いをもたらしているのはSUMOによる修飾の有無であると考えられる。
|