平成22年度は、BDNF産生細胞カプセルをてんかんモデルラットに移植して、低用量のBDNFがてんかんに与える影響を検討した。安定してBDNFを産生することのできる細胞株を、カチオニックリポソーム法を用いて作製し、半透膜製の中空糸に封入して、1日あたり約8ngのBDNFが分泌されるカプセル化細胞を得た。BDNFカプセル治療群では、カプセルから低用量で持続的に分泌されるBDNFにより、コントロール群と比較して、有意にてんかんの重症度が低下し、異常スパイクの数も減少した。また、BDNFカプセル治療群では、コントロール群と比較して、海馬においてBrdUならびにBrdU/Doublecortin陽性細胞数の有意な増加を認めた。また、海馬CA1、CA3領域においては、NeuN陽性細胞が有意に温存されていた。つまり、低用量のBDNFの持続的投与はてんかんモデルにおいて神経保護と神経新生の作用をもたらすことが判明した。過去の論文では、BDNFのてんかんへの治療効果を否定するものもみられるが、これらの論文では、我々のケースと比較して、BDNFの投与量が多く、それによって異常な神経再生が促進されていた。今回の我々の研究結果を合わせると、神経保護効果を持つとされるBDNFであっても、投与量の多い・少ないが、その神経保護効果・神経新生作用に重大な影響を及ぼすことが判明した。この結果を英文誌上にて発表した。
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