【研究目的】近年、腫瘍の増大・再発に腫瘍中にわずかに存在する腫瘍幹細胞が大きな役割を果たしていることが明らかとなってきた。しかし腫瘍幹細胞の発生起源や腫瘍形成過程においてどの様な役割を担っているのか不明な点が多い。本研究課題はヒト膠芽腫細胞株(U251)から誘導した腫瘍幹細胞(Sphere細胞)を用いて、腫瘍増大への関与(浸潤能や幹細胞性獲得機構)を明らかにすることを目指している。 【研究実績および今後の研究展開】U251を表皮細胞成長因子(EGF)、血小板由来成長因子(PDGF)および塩基性繊維芽細胞成長因子(bFGF)を含む無血清培地で培養を行うことにより、凝集塊を形成する浮遊細胞群(スフェアー細胞:Sphere細胞)を誘導し、幹細胞マーカーの発現や自己複製能などの腫瘍幹細胞としての特性を検討した。さらに、ヌードマウスを用いた造腫瘍能の評価及びBoyden chamber法、rat brain slice modelを用いた運動能、浸潤能について検討した。U251細胞株より誘導したSphere細胞は、腫瘍幹細胞マーカーであるCD133を発現し、自己複製能やcAMP上昇剤による神経様細胞への分化も確認できたことから腫瘍幹細胞の性質を有した細胞群であった。同細胞群は強い薬剤耐性能を有しており、ヌードマウス皮下や脳内において強い造腫瘍能を有していた。更にSphere細胞は遊走能、浸潤能共にU251親株細胞と比較して上昇しており、その強い浸潤活性については細胞外マトリックスを分解するマトリックスメタロプロテアーゼの一種であるMMP-13の酵素活性との相関関係が認められた。膠芽腫摘出組織を用いた解析では腫瘍辺縁部においてMMP-13の強い発現が確認できた。従って強い薬剤(抗癌剤)耐性能を持った腫瘍幹細胞が浸潤細胞として腫瘍辺縁部に位置し、MMP-13を利用して正常脳組織へ浸潤することが膠芽腫の有する治療抵抗性に大きく関与していることが示唆された。現在、shRNAを用いた遺伝子ノックダウン法により腫瘍幹細胞性の獲得に必要な因子の探索ならびに解析を進めており、腫瘍幹細胞性の獲得機構をさらに追求していく。
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