研究課題
最近、悪性脳腫瘍を初めとする様々な腫瘍組織中に「腫瘍幹細胞」が見いだされ、新たな治療ターゲットとして注目されている。腫瘍幹細胞は腫瘍中に数%程度存在する自己複製能、多分化能を有した細胞群で、この腫瘍幹細胞が分化増殖することで腫瘍組織全体を構成すると考えられている。また放射線治療や化学療法後の腫瘍再発に大きく関わることから「責任細胞」と考えられている。一方、悪性グリオーマの治療抵抗性の最大要因である高い浸潤能と腫瘍幹細胞の関係は国内外ともなされていない。そこで、ヒト悪性グリオーマ手術摘出組織の初代培養ならびにヒト悪性グリオーマ細胞株から腫瘍幹細胞の分離・同定を行い、浸潤能と腫瘍幹細胞の関係を明らかにすることを試みた。悪性グリオーマ細胞を増殖因子添加無血清培地にて培養することにより、CD133陽性、薬剤耐性能、分化能、強い造腫瘍能といった腫瘍幹細胞の特徴を有する細胞群の分離が行えた。分離したグリオーマ幹細胞はin vitroおいて強い運動能および浸潤能を示し、ラット脳スライスモデルおよびin vivo(ヌードマウスの脳内移植)においても高い浸潤能を示した。そのメカニズムとして、グリオーマ幹細胞においてはマトリックスメタロプロテアーゼ13(MMP-13)が高発現しており、この酵素を阻害すると浸潤能の抑制が見られたことより、腫瘍浸潤の一因を担っていることが示唆された。本研究は腫瘍幹細胞がグリオーマ浸潤の本体である可能性を示唆しており、今後はこれらの結果を踏まえて、腫瘍幹細胞がMMP-13を発現するメカニズム解明を端緒とし、腫瘍幹細胞の幹細胞性獲得・維持機構を解明し、腫瘍幹細胞の幹細胞性破綻を誘導する薬剤や遺伝子治療など新しいグリオーマの治療法の開発に繋げていく予定である。
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