研究概要 |
本研究では、2011年2月までに64手術例から運動誘発電位(MEP)のデータを収集することができた。そのうち、29例は経頭蓋刺激(TES)で、残る35例は皮質直接刺激(DCS)であった。これまでに収集したデータを元に解析を行った。 刺激強度を閾値レベルから上昇させると、立ち上がり潜時は次第に短縮し,プラトーに達した。本研究で行った最大200mAまでの刺激強度では、潜時の"jump"は認められないことから、行った刺激強席の範囲ではプラトーに達した後の被刺激部位はほぼ不変であると考えられた。 次に、最大激での立ち上がり潜時を、身長の差を補正して比較するとTESとDCSとでは0.17msecの差があり、TESの方が若干早かった。仮に神経伝導速度を60m/secとすると、これは1.03cmの差ということになり、潜時差からは被刺激部位はほぼ同じと判断された。一般にDCSは皮質直下の神経線維を刺激していると考えられるが、TESでもほぼ同部位を指摘していると判断された。 また、TESでは刺激を最大200mAまで上昇させても、ほとんどの症例で誘発される筋電図の電位に著明な左右差を認め、刺激と対側で得られるMEPの振幅のほうが遥かに大きいもの(同側では対側と比較して約41%)であった。これは刺激が(左右の神経が折接した部位を走行する)脳幹よりも中枢側(大脳半球のレベル)で皮質脊髄路を刺激しているためと考えられる。 経頭蓋刺激29例中、術中に運動誘発電位に有意な変化が認められた症例は2例であった。この2例ではいずれも術後に麻痺を認めた。両例の病変が基底核近傍にあることを考慮すると、TESが病変部位より中枢側を刺激していることを裏付けているデータであると考えられる。 これらのいずれのデータからも、TESの被刺激部位は脳幹や脊髄ではなく、大脳半球の神経線維であろうと考えられた。
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