研究概要 |
自然再生しない脳(神経)組織のダメージに対して,増殖・分化ポテンシャルの高い神経幹細胞移植を施すことで組織の修復が期待される。すなわち脳梗塞,パーキンソン病,脊髄損傷などへの新治療が期待される.本研究では(1)細胞源として皮膚由来幹細胞のポテンシャル,(2)神経分化に関わる因子の制御などについて明らかにし,再生治療効果の向上と安定化を目的とした.皮膚より単離,ニューロスフェア法により継代培養を行った皮膚由来幹細胞を用い,神経分化能を有することを確認した.この皮膚由来幹細胞の局所移植が奏功するには,移植前に神経分化誘導されていることが必要で,その因子として既知のVHLタンパクに焦点を絞り検討した.未分化維持機構と分化促進には細胞内シグナルであるSTAT3の関与が示唆された.即ちVHLタンパクの構造はN末端のユビキチン化するタンパク質結合部位であるβドメインとC末端のElongin B,C,Cullin-2,Rbx1と複合体を形成するαドメインからなるが,Elongin B,Cの結合部位に相当する構造が神経分化誘導能を有していた,この神経分化誘導因子は細胞内シグナルであり,細胞障害性が少なく細胞内導入することが移植細胞には求められる.そこで膜貫通タンパクを用いた手法でシグナルを制御するようペプチドを設計した.ペプチドは投与1時間で98.3%の細胞に細胞内導入され,6時間で核内移行を認めた.STAT3、SOCS3などの細胞内シグナル伝達物質が神経分化へ関与することを確認できたため,これらを有効に制御できるペプチドのコンピュータ上で三次元的な構造をシュミレーションして設計を行った.黒質を破壊したパーキンソンモデルラットにこの神経分化誘導を施した幹細胞を線条体に移植し,アポモルフィン誘発回転運動数を経時的に計測し,有意な行動学的改善を認めることを確認した.皮膚由来幹細胞は初代培養(単離)から移植にいたるまでに細胞に対する遺伝子操作は一切必要ないところに利点があった.今回,再生医療の一手法として皮膚細胞の活用が有用と考えられた.
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