研究概要 |
滑膜肉腫幹細胞を分離・濃縮するために、滑膜肉腫細胞株におけるSide population(SP)の存在率をFACS解析により検討した。その結果、3つの独立な滑膜肉腫細胞株の中で最も存在率が高いものでもSPは全体の約0.01%以下と極めて少なく、分離・濃縮し幹細胞性の有無に関して検討を行うことは技術的に困難であった。そのためもう一つの濃縮法である低血清・低接着条件によるsphere形成法を用いて滑膜肉腫幹細胞の分離・濃縮を試みた。最初に前述の3つの滑膜肉腫細胞株を用いて、血清、培地、初期細胞数、培養日数等の種々の条件の最適化を行った。幹細胞性の有無の指標として、Oct3, Nanog, Sox2等の幹細胞性の維持にかかわる遺伝子群の発現量を半定量的RT-PCR法により確認した。 次に最適化されたsphere cultureの条件下で培養した細胞を、通常条件で培養した細胞株をコントロールとしてNOD/SCIDマウスの皮下に移植し腫瘍形成能の検討を行った。その結果形成された腫瘍はsphere culture群で有意にサイズの増大が見られた。 またSphereとnon-sphereからそれぞれtotal RNAを抽出しgene expression profileの比較解析を行った。その結果、幹細胞マーカー候補となりうる表面抗原、幹細胞性の維持に関与する可能性のある転写因子を複数同定した。 ここまでの研究で、我々は初めて滑膜肉腫細胞株において腫瘍幹細胞様の性質を有する細胞群を分離・濃縮する事に成功し、滑膜肉腫幹細胞マーカー、幹細胞性の維持に関わる候補遺伝子群の同定にも成功した。このことは滑膜肉腫における新規治療標的を探索する上で極めて重要な発見であると考える。
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