研究概要 |
マウスを用い,T11高位にて脊髄損傷モデルを作成し,リアルタイムPCR法を用いて脊髄損傷後のmiR-223の発現を観察したところ,損傷12時間後,3日後で二峰性の発現のピークがみられた.次に損傷12時間後におけるmiR-223の発現を損傷部中心に2mmごとに全長12mmにわたって解析したところ,損傷部±2mmの範囲でmiR-223は有意に高発現し,同部位での炎症性サイトカインの上昇を認めた.またin situハイブリダイゼーションと免疫染色による二重染色により,miRNA-223陽性細胞の約60%がGr-1陽性の好中球であることが判明した.さらにmicroRNA-223の発現制御因子であるC/EBPαの発現を免疫染色で確認した.以上より損傷早期の12時間において,好中球の遊走と炎症性サイトカインの放出は損傷部±2mmの範囲に集中し,これら好中球の動態にmiR-223の関与が示唆された. 現在,損傷脊髄に対する再生医療として主に再生誘導あるいは細胞の移植研究が行われており,一部ではすでに臨床試験も実施されている.しかし移植細胞の腫瘍化や倫理的な問題問題があり,いまだに有効な再生治療は確立されていない.miRNAは組織特異的,発生段階特異的に発現しており,細胞の増殖,分化,アポトーシスなどといった生命現象だけでなく,疾患にも重要な役割を果たしているといわれている.また培養等の作業が必要なく,比較的臨床応用しやすいといった利点があり新薬開発の期待される分野である.miR-223は今後さらに研究をすすめることにより,脊髄損傷後の二次損傷を防ぐ新しい治療法のターゲットとなる可能性がある.
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